2010/11/16

誰にも文句は言わせないJacintha

ぐっと落ち着いた気分になりたいと、何を聞こうかと考えて浮かんだのが女性ジャズボーカルJacintha(ジャシンタ)の「A Vocal Tribute to Ben Webste(1998)」。このアルバムを聞くのは、たぶん1年ぶりぐらいでしょうか。


彼女は殆どの楽曲で声を張る(力む)ことはありません。彼女のボーカルの魅力は非常に細やかな表現をサラリとやってのけてしまう技術です。特に同じようなトーンで歌っているようでも声のコントラストが微妙に違います。陰影を感じる声、少しチャーミングに感じる声など、さまざまな色合いで細やかに表現しています。また乗りが大きい(リズムのとらえ方が大きい)ので聴き手に安心感を与えます。加えて、媚びるような歌い方をしないところも彼女の魅力ではないでしょうか。

とにかく素晴らしいボーカリストです。

このアルバムは有名なスタンダードナンバーをずらりと揃えた内容です。このような歌モノのアルバムの場合、数曲はいまいちというケースが多く、それを避けるために奇をてらったアレンジをして失敗に終わるなど、なかなか良い評価を得るのが難しいのですが、このアルバムにはそんな心配はいりません。またこのアルバム以降に発売されたアルバム全てにおいても素晴らしいと言えます(最新のものは聴いていませんが)。

素晴らしい世界を創りあげる彼女の経歴も興味深いものがあります。彼女はシンガポールで活躍する国民的スターで女優としても有名です。1957年10月3日マレーシア生まれ、父親はスリランカ人でクラシックギターを習得したジャズギターリスト、母親は中国人でピアノニストであり声楽家だそうです。

幼少の頃から声楽とピアノを学び、シンガポール青少年合唱団で歌っていたそうです。テレビタレントコンテストで優勝したそうです。シンガポール国立大学に進み英語の学位を取得、その後ハーバード大学で創作について学びました。シンガポールに帰国した彼女はステージョーなどで人気を博し、紹介したアルバムからボーカリストとして米国に進出し現在に至っています。

日本人好みと思うのですが、なぜか日本での知名度が低いのです。彼女について書かれたものは皆無と言っていいでしょう。シンガポールが彼女の活動の場となっているのと日本版が発売されていないからでしょうか。

実は私も2002年まで彼女のことは全く知りませんでした。シンガポールの友人とジャズの話をしたときに彼女の存在を知らされました。それ以来ファンとなり、米国デビューしてからベストアルバム含め7枚のアルバムが発売されており内5枚を所有しています。

アルバムに収録されている「Danny Boy」がYOUTUBEにアップされていましたので是非お聞きください。2:40までは無伴奏で、その後ピアノ、ベース、ドラムが、それまでに創られた雰囲気を壊すことなく入ってきます。無伴奏とバックがついたときとの彼女の変化、バックがついてからもその場その場での細やかな表現とじっくり聴ける1曲です。また7分を超える作品ですが、彼女のソロで始まりエンディングまでの持って行き方が素晴らしく、まるで「ダニーボーイ物語」を見ているような気分にさせられます。彼女の持つ才能か、計算されたものかは分かりませんが、唸らせてくれます。むせぶテナーサックスもいいです。

投稿にあたり

投稿には15分以上時間をかけないことを課し、誤字脱字、文脈の揺れを気にせず書いています。テーマはエンターテイメントを中心とした雑記。