先月末に起きた東京ドームシティアトラクションズでのアラクション事故では、運営側の東京ドームの危機管理体制の不備が露呈しました。企業として施設運営に関する十分な知識と理解がなかったことは明らかです。また事業自体、安全を確保して初めて成り立つ事業であることの認識もなかったのではないかと思います。
問題となっている安全バーの確認について、お客の腹部に触れることから、それを不愉快と思うお客がいたとのことで目視による確認になっていったと記事には書かれていました。これは運営を行うにあたって最もしてはならないことです。
お客の安全を第一に考えるのであれば、直接手による安全確認を拒むお客がいれば、乗車を断らなくてはなりません。それがお客の安全を第一に考えた行動であり、お客がそれに対しクレームを出し問題となっても運営側が支持を得るでしょう。
お客が搭乗を希望されたときに「安全確認を行う際、係員がお客様の腹部に触れる場合がございますので了承ください」とサインを出すか、直接伝えるかすれば良く、その時点でそれをいやだと思うお客は自身の判断で搭乗しないでしょう。
また「施設入場チケットに、施設内では係員の指示に従ってください」と印刷し、チケット販売時や入場時に「チケット裏側の注意事項を確認ください」といっておけば、係員の指示に従わずトラブルになっても施設の責任は問われませんし、お客の安全を守ることになります。
このように入場時、搭乗希望時の2 段階で対応し、従業員に安全運営を周知徹底していればこのような事故は起きなかったでしょう。もし従業員の業務違反で安全バーに直接触れずに運行し、事故が起きた場合は、同じ業務上過失致死容疑となっても、企業側にかかる責任は低く、従業員にかかる責任が重くなります。つまり、業務上過失致死容疑でも、企業に対する社会批判はすくなくなるということです。これらをしっかりとおこなうことが施設運営における危機管理であり自己防衛となります。
また、記者会などでは、日本人は心情をより大事にする国民性ですので、まず先に謝罪するのが望ましく、(ちなみに欧米では技術的な面を知りたがる)。記者会見などでは「事故の原因究明はこれからですが、今回の事故で・・・・・誠に申し訳ありませんでした」と謝罪すべきでした。
今回の事故のように生命に関わるような場合は、メディアや被害者に対する初動を誤るとその影響は企業の社会的信頼を取り戻すのに長い時間がかかることとなります。
思い出してください、大阪「吉兆」と伊勢「赤福餅」、シンドラーやJR西日本とスイスの観光列車、初期対応が企業のその後の運命を分けたことを。
エレベーター事故により若き命が失われました。企業側の被害者、メディアへの対応の悪さが、社会的評価を大きく下げるだけではなく、被害者との和解が成立せず裁判となりました。そうなると裁判が開かれるたびに報道されることとなり、社会の記憶には悪い印象が長く残ってしまいます。つまり企業の信頼が取り戻せなく、企業運営がままならぬ状態に陥ります。
かたやスイスで起きた列車事故の場合、複数の日本人が被害にあいましたが、企業側の素早い対応で、全ての被害者との示談が成立したと聞いており、日本国民の心情にまで配慮したメディア対応だったため後を引くような記事は一切出ることはありませんでした。
現実はテーマパークや遊園地などの施設の運営に関して総合的に危機管理体制を構築できる人材がいません。現在国内にも危機管理をおこなうコンサルタント会社は多くありますが、テーマパークなどの施設の運営にかかわる危機管理のスペシャリストはいないでしょう。だからこそ他の施設は、常にお客、従業員の安全を第一に考え運営を行っており、日々積極的に安全率を高める努力をしています。
最後に、日本企業の危機管理は企業(経営)の視点に立った危機管理となっているように見えます。本来はその企業に何らかの形で関わる人々と従業員の安全(犯罪への加担抑止など含む)を担保するということからスタートした危機管理体制を構築することが重要で、そうすることが結果、不測の事態が起きても企業として従業員と一体となって対応でき、早期に問題解決が可能となります。また企業として、さまざまなリスクを回避するために社内規定を策定し、従業員に遵守を求めています。社内規定などは従業員の最低限の安全(広義の意)を担保するもので、決して自由な業務を阻害するものではないことを従業員に理解させることも積極的に行っていただきたいです。
社会に何らかの製品やサービスを提供する、またそれに関わることで発展していくのが企業です。発展するためには社会から評価される必要があり、その評価を得るために必要なのが危機管理であるとの認識で、企業には自社の製品やサービスの安全率向上に取り組んでいただきたいですね。